医療や食やセラピーの現場で、自分や家族の不調に何を食べたらいいのか迷う患者さまやクライアントさまに、やさしい家庭薬膳レシピを提案できる人材を育成して14年になります。
きっかけは、肺がんの放射線の通院治療で体内の呼吸器に火傷を負った父に、実家で炎症を癒す料理を考えられなかった会社員当時の後悔でした。
父が他界した後この苦い経験を糧に薬膳を学び、勤めを辞して2008年に《薬膳の専門家》を養成する薬膳スクールを開校して現在に至ります。
《薬膳の専門家》を育てる【ナチュラル薬膳生活Ⓡ学び舎ブログ】
今日も秋の食養生をテーマに【前期】薬膳基礎コースの薬膳レシピ開発レッスンでした。
季節薬膳の試食を前に柏本校サロンにて生徒さんと一緒にパチリ。
既にご案内しているとおり
横浜に移転するため、現在、ナチュラル薬膳生活カレッジ柏本校サロンが入っている蓮蓉茶樓ハウスを「売物件」に出しています。
でもやはりこうして生徒さまとの楽しい対面リアルレッスンの様子を眺めると、手放すのが惜しくなってしまいます(泣)。
14年かけて築き上げてきたこの癒し空間は出来れば壊さずに、食を愛し人々を幸せにしたい良きオーナーさんにお引き渡し出来ればと心から願います。
さて、秋は乾燥が始まるので体液を潤すしっとりした薬膳調理の考え方を今月はレッスンでご紹介しています。
するとたまたま生徒さまが中医学の見地から朝に飲む1杯の「水」について話題を提供してくださったのですね。
水はちょうど潤いに関わり生命の維持に欠かせない地球上の物質。
同じ中医学の各方面のエキスパートでも、朝飲む1杯の水についての見解が違うらしい話が耳に入ったとおっしゃるのです。
知り合いのヘッドスパをやっている美容師さんがお客様へ健康サービスを提供したくて、いろいろな中医学のセミナーを受講しているそうです。
すると講師さんによって、朝飲む1杯の水は冷水が良いと言う人と、白湯(さゆ)良いと言う人がいたのだとか。
生徒さまが中医学によってもいろいろ流派があって、考え方が違うらしいと美容師さんから聞いたらしく、その例としてこの水の話を分かち合ってくれました。
朝飲む水の温度についての見解の違い。面白いなと思いました。
それで、美容師さんは困ってしまって、今は、
冷水と
白湯の中庸をとって、
常温の水を飲んでいるのだとか(笑)。
まさに中医学の陰陽学説の中庸の考え方を判断に取り入れていらして素晴らしいですね(笑)。
興味深いお話だったので、今回は、「【薬膳よくあるご質問】朝起きて飲むのは冷水か常温の水か白湯(さゆ)か」考えてみたいと思います。
中医学から見る「朝起きて飲む1杯の水」
中医学ではわたくし達の生命を維持するのに欠かせない物質のひとつとして「潤す要素」をとても大切に考えます。
だから体を潤すために「朝起きて飲む1杯の水」はイノチのしずく。
ちょうど今月の薬膳調理レッスンでフォーカスしている秋は体から潤いを奪う乾燥が進む季節。
薬膳で渇きを癒す「潤い補給」の手法を集中的に生徒さんたちに学んでいただいているところなので、水について考えるのによい機会だと考えました。
薬膳のいしずえである中医学では、体の中に存在するこの潤い成分のことを、津液(しんえき)と言います。
余談ですが中医学から派生した日本漢方では、体内の津液のことを水(すい)と呼んできました。
現代生理学の知見も交えて考えれば、津液は食事・代謝酵素の働き・飲み水によって作られて、血漿の浸透圧を健やかでいられる一定のレベルに保っています。
・1日に得られる水 食事 1000ml 代謝水 300ml
飲み水 1200ml
その一方で、津液は生命活動を支えるために代謝されて尿や便とともに汚れた水として体の外に出ていきます。
またそれだけでなく、不感蒸泄(ふかんじょうせつ)と言って、たとえあまり運動をしなくても体からは、呼吸や汗によっておよそ900mlと意外に大量の水分が蒸発していきます。
・1日失われる水 尿・便 1600ml 不感蒸泄 900ml
ですから、1日にわたくし達の体ではおよそ2.5ℓの水が出入りして、津液や浸透圧を保ちながら体を潤しています。
津液を保つには1日に1200mlのお水を摂る必要があり、日中の活動時間帯はもちろん寝ている間にも不感蒸泄で900mlの水分が体の外へ気体に変化して出て行っているのです。
だから、大量に汗をかく夏や激しい運動をしていないときでも、就寝前や起床の際に水を飲むのは理に適っているのです。
人の水収支
*1日2.5ℓ
・得られる水・ ・失われる水・
食事 1000ml 尿・便 1600ml
代謝水 300ml 不感蒸泄 900m
飲み水 1200ml
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朝飲む1杯の水の温度は「中医学の3つの判断基準」で決めるのも手
朝水をコップ1杯飲むのが健やかな暮らしを守るイノチのしずくなのは分かりました。
では、最初に薬膳の生徒さまが提起してくださった戸惑いに立ち返ります。
中医学の専門家でもなぜ「冷水」がいい、「白湯」がいいと見解が分かれたのか。
判断に困って中医学を学んでいる美容師さんが中庸をとって「常温」の水を飲んでいるけれど、それでよいのか。
生徒さまが提起してくれたこの話題、あなたならどう判断しますか。
そもそも、あなたは朝コップ1杯の水を飲んでいらっしゃいますか。
もしそうなら、どんな温度で飲んでいますか。
中医学にもとづく薬膳の専門家として薬膳ライフコーチなら、中医学の理論で判断します。
中医学には大原則として消化や水分の代謝に関わる内臓を冷やさないという考え方があります。
だから基本的に冷水はNG。
但し、中医学にはほかにも、人は健康を守りたいなら、人・時・土地の3つに合わせて暮らすように、という「3つの判断基準」もあります。
これら3つは、個々人で異なる体質や体調、その時の季節・その人が暮らす生活環境のこと。
もしある人がまだ気温が高い秋の初めの乾燥期に腸管が乾いて熱くなり、乾燥性かつ熱性の便秘に悩んでいたとします。
そんな場合は、朝起きてコップ1杯の冷水を飲んで直腸が刺激され、自然なお通じがある場合が考えられます。
だから、中医学の専門家が冷水をおススメしたら、その人が実生活で実践してこうした例のように健康管理に役立てているからかもしれません。
薬膳ライフコーチの例では、朝起きるとケーキ屋さんからもらったカップでおよそ150mlのお水を飲みます。
8月まで残暑で気温がまだ30℃近く暑かったので、前の晩にやかんで沸かして置いたお湯が冷めた常温の水を飲んでいました。
熱帯夜でものすごく暑くて汗をかいて寝苦しかった猛暑のピークの頃は、冷水の発泡性のミネラルウォーターも時どき飲んでいました。
本当は内臓を直接冷やしてはいけないけれど、今日は暑くて耐えられないのですみませんと内臓さんにつぶやきながら。。。
しかし秋の気配が進み店頭に栗が並び始めたこの時期からは、朝の気温が25℃を下回る日が増えて涼しいので、やかんに残ったお水を沸かし直して白湯を飲んでいます。
その後、生ぬるいお湯で体を温めたり若々しさのもとを補給したり血流を改善する漢方薬を服用することもあります。
つまり体調や季節によって朝飲む1杯の水の温度は変わるので、いつも同じということはありません。
中医学で言うならば朝起きて1杯の水を飲むのは先にご紹介したように、生命を維持するのに欠かせない津液を補給するのが目的です。
例えば涼しくなってきたのに朝にコップ1杯の冷水を飲んで水分代謝を担う臓器の機能を低下させ、お腹を壊したり、浮腫んだりしたら、それはその人の健康管理に合っていないので白湯を飲むように修正すれば大丈夫。
地球上には様々な国があって、水資源の事情はさまざまですから、人が暮らす土地によっても朝に飲む水の温度や摂り方はそれぞれ異なるのだと推測がつきます。
だから、朝起きて飲む1杯の水は必ずしも冷水・常温の水・白湯のどれがよいというよりも、飲む人の健康を管理するのにちょうどよい温度をその都度判断するのがいいですね。
自分でどうしたらいいか分からなければ、ご紹介したような中医学の「3つの判断基準」を使うのも手ですよ。
「ナチュラル薬膳生活Ⓡ」の「ナチュラル薬膳生活専門家養成コース」
【前期】薬膳基礎コース、
【後期】薬膳応用コースでは、このように中医学に現代の生理学の知見も交えて健やかな暮らし方を社会に普及しています。
まとめ【薬膳よくあるご質問】朝起きて飲むのは冷水か常温の水か白湯(さゆ)か
今日は薬膳レシピ開発のレッスンで生徒さまから伺った、ほかの中医学を学んでいる人が中医学の講師によって受け取る情報が違うのに対する戸惑いをピックアップ。
最初は中医学の講師の流派によって同じ中医学でも教える内容が違うのかなと推測していたようでした。
習った内容の違いの一つの例として、朝起きて飲む1杯の水は一方が冷水、他方が白湯という教えを挙げてもらいました。
そこで、薬膳ライフコーチが中医学と現代生理学の見方からこの事例を考察。
中医学に基づく薬膳の考え方に照らして健康を守りたいなら、人・時・土地の3つに合わせて暮らすように、という「3つの判断基準」が参考になるのを紹介しました。
ここでは朝起きて飲む1杯の水しか例に上がっていませんが、複数の中医学の講師から違うことを習って戸惑った場合、中医学のこうした基本の「3つの判断基準」に基づいて考えてみるのもよいでしょう。
中医学の関わる講師の方はどんな人でも、一定して一律にこれをこのルールに則ってやり続けるべしという導き方はしません。
まずは一人ひとりに合わせて養生することを教えるのが基本の学問だからです。
「ナチュラル薬膳生活Ⓡ」は中医学のこうした知恵を食生活に取り入れたライフスタイル医学の暮らし方。
そびの社会普及活動の一端を今回の話題から知って頂けたら幸いです。
季節に合わせて飲み方や食べ方を変える薬膳の食事療法の考え方をやさしく知りたい方は、電子書籍
『薬膳生活レシピ開発BOOK季節薬膳シリーズ』をどうぞご参照ください。
須崎桂子けいてぃー♪
参考文献・出典:
厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
『薬膳生活レシピ開発BOOK季節薬膳シリーズ』
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