医療や食やセラピーの現場で、自分や家族の不調に何を食べたらいいのか迷う患者さまやクライアントさまに、やさしい家庭薬膳レシピを提案できる人材を育成して14年になります。
きっかけは、肺がんの放射線の通院治療で体内の呼吸器に火傷を負った父に、実家で炎症を癒す料理を考えられなかった会社員当時の後悔でした。
父が他界した後この苦い経験を糧に薬膳を学び、勤めを辞して2008年に《薬膳の専門家》を養成する薬膳スクールを開校して現在に至ります。
《薬膳の専門家》を育てる【ナチュラル薬膳生活Ⓡ学び舎ブログ】
ナチュラル薬膳生活専門家養成コース【前期】薬膳基礎コースの薬膳レシピ開発レッスンの今月のテーマは秋の季節薬膳です。
秋は乾燥してくるので大宇宙=大自然の季節変化に合わせて養生する薬膳の手法は、潤す調理法が中心。
全身がしっとり潤う薬膳粥などをご紹介しながら、生徒さまとおいしく乾燥によるトラブルケアを学んでいます。
薬膳レシピ開発レッスンでは調理例をご紹介した後で、生徒さまがご自身でレシピを考案する宿題が課されます。
その課題に取り組んでいる生徒さまからテキストに山芋(生)と載っているのですが、加熱調理した山芋と薬膳的に働きが違うのですかと質問がありました。
確認すると確かに山芋(生)と表記した部分がありました。
そういえば山芋の調理例をレシピ開発していたとき、個人的な見解ですが生と加熱ではずいぶん食感と食後の潤い感が違うのに気づき、敢えてそのように記載。
その割に生の山芋と加熱調理したものがどう違うのかあまり明記していなかったのですね。
生徒さまは、山芋を加熱して秋の薬膳レシピを課題提出しようと思っていました。
だから山芋を加熱したら秋の乾燥した体を潤す働きが弱くなるのだろうかと心配なさっていたのですね。
よいご質問でしたので今回は、「【薬膳レシピ開発】秋の乾燥に山芋の調理法は生と加熱どちらがよいのですか」を分かち合わせていただきます。
薬膳の中医営養学と現代栄養学からみる山芋の働き
中医学には中医営養学という分野があって、薬膳素材となる食材が働きに応じて分類されており
山芋もその中に属しています。
「営養」は中国語で、日本語の「栄養」のことです。
ここでは山芋の潤い効果を含め、その働きを中医営養学と現代栄養学の視点から比較して捉えてみましょう。
加熱することで山芋の有効成分がどう変わるのかを知るのには、現代栄養学の方が捉えやすいからです。
そして乾燥する秋の薬膳作りには山芋をどのように調理したら、乾燥ケアに役立つのか一緒に考えてみましょう。
中医営養学的にみると山芋には消化器系統を助ける働き、下痢や尿漏れなどを引き締めて防ぐ働き、若々しさのモトを補給する働き、
体を潤す働き、といったように多面的に作用します。
秋の乾燥を癒すのが薬膳の目的であるならば、山芋を使う際は体を潤す働きを活用することになるわけです。
山芋は薬膳のいしずえである中医学の世界では古代から薬草の一種として使われており、山薬(サンヤク)と呼ばれています。
中医学から生まれた日本の漢方薬にもサンヤクは配合されていて、日本薬局方にも収載されている生薬のひとつ。
消化器系統を助けて生体エネルギーを補給する目的などに使われているのですね。
生薬の山薬は皮を剥いて薄くスライスしてカラッカラに乾燥させた白い板状に加工されています。
それが刻まれて他の生薬とともに漢方薬に配合されているのです。
現代栄養学的にみると山芋は切ったりすったりすると出てくる、あのヌルヌル成分が特徴的。
その正体は糖が連なった多糖類のとろみの食物繊維。
喉越しが良いので、すりおろしをスープなどに仕上げると、嚥下障害の方には食べやすくなります。
また、消化酵素のジアスターゼを含み消化を助けるため胃腸が弱い人の消化吸収を助ける食材です。
一方、山芋のヌルヌルにはアレルギー反応を示して、触った手や触れた喉が痒くなる人がいるので注意が必要。
でも、山芋は加熱によりヌルヌルや消化酵素が失われていきます。
このため、山芋アレルギーのある人は加熱調理すると食べられることが多いです。
その代り、消化を助ける酵素の働きが低下するので、消化を助ける作用はあまり期待できなくなります。
生のすりおろした山芋はヌルヌルですが、加熱調理すると、モチモチになったり、ホクホクになったり、食感が変化。
ですから、山芋は薬膳と栄養の観点から食事療法の目的に合わせて調理法を選ぶとよいですね。
以下は、今回ご紹介した山芋の中医薬膳学的かつ現代栄養学的な働きをまとめたものです。
営養補給系 補気類 山芋
*体温への作用・味の性質・臓腑への働きかけ・作用*
平 甘
脾 肺 腎
補気健胃 補脾止瀉
補腎益精 補陰潤肺
縮尿 固精 止帯
*栄養素・生理機能成分*
炭水化物 タンパク質 カリウム
食物繊維 ジアスターゼ コリン |
参考文献
『ナチュラル薬膳生活入門編』
『食材健康大事典』
山芋で潤したいなら生か半生またはしっとり調理法仕上げるのがコツ
こうして山芋を中医営養学と現代栄養学の視点から考えると、秋の乾燥対策に調理するなら、生か半生か、潤いを補給するしっとりした調理法を選ぶのがコツです。
加熱の方法や長さにもよりますが、高温で揚げたり、長時間蒸したりすると、生や半生のヌルヌルやシャキシャキした瑞々しい食感が失われて、モッチリ、ホクホクしてくるからです。
生徒さんは秋の潤い薬膳を開発するのに山芋を加熱して使おうと思ったら、山芋(生)に備わった体液の陰液を補給して肺を潤す「補陰潤肺」の作用が弱まるので心配してしまったのですね。
でも大丈夫。もし潤い補給が薬膳の目的なら、潤す調理法を選べばよいのです。
例えば、電子書籍
『薬膳生活レシピ開発BOOK Vol. 5 梅雨 季節薬膳』に収載されている「山芋のはと麦粥」。
秋ではなく梅雨の季節薬膳ですが、この処方では消化器系統を助ける「補気健胃」の目的で山芋を配合しました。
浮腫みを除きつつ、
体に必要な潤いは補給する水分の多い「
粥」の調理法で仕上げています。
お粥を炊くときに最初から山芋を入れてコトコト炊くと、出来上がるころにはすっかりホクホクに変わっています。
でも、しっとり潤うお粥の調理法で仕上げれば水分補給にも役立ち喉越しのよい薬膳フードセラピーに。
他の潤す薬膳素材と組み合わせて自分なりに開発すれば、乾燥によるトラブルを予防ケアする薬膳にアレンジできます。
薬膳ライフコーチが社会に普及している「ナチュラル薬膳生活Ⓡ」の「ナチュラル薬膳生活専門家養成コース」
【前期】薬膳基礎コース、
【後期】薬膳応用コースでは、このように生徒さん達が自分で考えてレシピ開発する実践力を伸ばしています。
だから、山芋は調理法次第で加熱しても秋の季節薬膳レシピ開発に使えますから、生徒さん達には安心して課題に取り組んで頂ければと思います。
まとめ【薬膳レシピ開発】秋の乾燥に山芋の調理法は生と加熱どちらがよいのですか
秋の季節薬膳レシピ開発の課題に取り組むにあたって生徒さまから「山芋は生と加熱では働きが違うのですか」、「潤す作用が変わってしまうのですか」とご質問を受けました。
薬膳ライフコーチからの答えをもとに、今回は「【薬膳レシピ開発】秋の乾燥に山芋の調理法は生と加熱どちらがよいのですか」をテーマに、薬膳レシピを自分で考案する考え方を分かち合いました。
秋は呼吸器・お肌・大腸が外界の乾燥した空気の影響で潤いを奪われるので、咳・ドライ肌・乾燥タイプの便秘といったトラブルが起こりやすいもの。
巡る季節で起こりやすい典型的な不調を予め知っておいて、心と体の失調を普段の食生活で防ぐのが薬膳の先人の知恵です。
今回は秋の季節薬膳でご質問のあった薬膳素材の山芋にちなんで、中医営養学と現代栄養学の視点を比較しながら、調理による潤い効果の変化を考察。
例え、潤い効果が期待できる山芋のヌルヌルしたしっとり感や、シャキシャキした瑞々しい食感が加熱調理で失われても大丈夫。
潤い補給に役立つお粥のようなしっとりした調理法を用いれば、山芋は秋の季節薬膳作りに十分生かせることなどを今回はご紹介させていただきました。
こうした薬膳の知恵を現代のライフスタイルに取り入れて、健やかに幸せに暮らす「ナチュラル薬膳生活Ⓡ」の社会普及活動の一端を知って頂けたら幸いです。
須崎桂子けいてぃー♪
参考文献・出典:
『ナチュラル薬膳生活入門編』
『食材健康大事典』
『薬膳生活レシピ開発BOOK Vol. 5 梅雨 季節薬膳』
]]>